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関東支部 武田俊夫
最近欧米で最も注目されている日本の植物は、かつてのコマクサ、シラネアオイ、ユキモチソウなどから雪割草にとすっかり様変わりしてしまいました。これは日本の雪割草が数年前に海外の山草会誌に掲載され、欧米の雪割草にはない多彩な花の変異が紹介されたからなのです。来日した植物関係者は現物を目の当たりにして日本にこんなにすばらしい植物がまだのこされていたのかと大変な驚きだったようです。
雪割草は早くからその美しさが注目され、ブームになる前から多くの人に親しまれてきましたが、残念ながら東京地方独自の栽培法の開発を怠ったため、、いまだに多くの人が夏の暑さで葉を痛め作落ちさせてしまっています。これは紹介されている栽培法が自生地に近い日本海側向けであるにもかかわらず気候のまったく違う太平洋側で真似たのが原因と思われます。事実新潟郊外の栽培家は一様に雪割草は放任主義でもなんなく作れるといっているように自生地に近ければ栽培容易な草のようですが、真夏日と熱帯夜の多い東京では一筋縄ではいきません。よほど夏の暑さに負けない植物体作りをしないかぎり、夏を過ぎるとみじめな姿になってしまいます。私も初期の頃は葉の痛んだみすばらしい姿をみて、悔しい思いをしたものです。上手に作りたい一心で、10数年前から東京地方独自の栽培法に取り組み始め、年毎に改良を重ねた結果ようやく最近になってほぼ思い通りに作れるまでになりました。海外でも絶賛されている雪割草を一人でも多くの人と楽しめたらと私の栽培法を述べてみたいと思います。
かつては山採り苗が主流だった雪割草の変化咲きも、交配のノウハウが次第に解明され、無限に可能性のある花を誰もが実生でつくれる時代を迎えました。と、いっても雪割草の実生は開花までに4〜5年かかるという通説がネックとなり、趣味家の多くは本格的な試みを怠ったため、現状は一部のブリーダーの独壇場になってしまいました。確かに最近では、一昔前には考えられなかった変化咲きが無数ともいえるほど実生でつくられ、比較的安価に市場にでまわり、気軽に楽しめるようになったのですが、これに比例するようにつくる楽しみを放棄してしまった趣味家が増えてきたように思え、残念でなりません。
私は1990年の年頭に10年後の2000年までに実生で千重咲をつくろうという目標をたてどのような交配をしたらいいものか右も左もわからない状況から始めたのですが、同時に開花までの時間を短縮できないと実生苗を置く場所がなくなってしまうので欲張って両方に挑戦することにしました。10年経った最近では念願の夢もかない、タネをまいて2年後の発芽翌年には子葉2枚と本葉1枚で千重咲を開花させるまでに上達しました。自分で作ったオリジナル花が咲いた喜びはひとしおで、これは体験したものだけの特権です。是非、多くの人につくる喜び、実生の楽しみを味わっていただきたいと思い、私の実生法を述べてみます。
東京地方は夏の気温が高いので山野草栽培には不利だとか、夏対策が万全でないとよく育たないとか今までは夏の暑さの不利な点ばかりが強調され、暖かさを有効利用しようという発想が生まれませんでした。ところが実生苗の多くはこの暖かさをしたたかに利用して驚くほどの速さで生育するのがわかりました。
雪割草もそのひとつで、寒冷地にくらべ早春から暖かい東京地方では芽出の時期が早いので、移植と効果的な施肥により従前より早く発芽翌年(タネまき後2年)には10%ほどが、未開花株もその翌年(タネまき後3年)には95%ほどが開花するのがわかり、栽培場の狭い東京でも少ない鉢数で十分実生を楽しむことができるようになりました。
では、種をとるところから順番に見てみましょう!
タネは完熟すると自然に落ちる。、交配したタネを確実に採るには小袋のチャック付ビニール袋に細かい穴を20ヶ所ほど空けタネに被せ袋の中でタネがこぼれ落ちたら花茎から外しハンガーなどに洗濯バサミで止め袋ごと1週間ほど乾かした後まく。
まき床の一例
3.5号ポット
まき床は発芽直前まで日陰におき、水切れさせないよう管理する。明るすぎると苔が生えることがあるが、黒の寒冷沙か、むしろを被せ暗くすると防げる。この場合むしろの上から潅水するとタネがカビることがあるので横着せずに、めくって与える。 肥料に関して元肥は入れず液肥で肥培する。
3月のまき床の様子
去年の春に播種した種子が発芽をはじめました。液肥は根の動き出す11月下旬から与えます。肥料で表土が緑色のコケで覆われています。
<置き場>と<水やり>は親株に準ずる。
実生苗も親株同様肥料を使い分けることがポイントとなる。寒冷地で無肥料だと発芽した年には本葉は出さず翌年になるといっているが、気温の高い東京では効果的な施肥で本葉を出せる。
11月下旬〜発芽まで | リン酸カリ主体の液肥N-P-K=0-6-4の2000倍液を週に一度与える。雪割草のタネは11月下旬頃から根を出し始め翌年3月下旬頃までに7〜10㎝ほどまで伸び気温の上昇と共に葉を展開させる。 |
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発芽〜5月中旬 | 実生苗も親株と同じように葉をできるだけ大きくつくるのがポイントで、葉が大きくなるにつれ根の数がふえ、その後の生育がよくなる。窒素分の多いN-P- K=8-3-3か10-3-3の2000倍液を週に4〜5回与え、葉をできるだけ大きくさせる。これ以上大きくなれないと判断すると本葉を1枚出す。この本葉が親指の爪ぐらいまで育つと翌年の開花が期待できる。置き肥を併用すると効果があるが、葉に当たったり溶け具合が濃いと葉が枯れ回復に2〜3年以上かかってしまうので注意する。 |
5月中旬〜6月下旬 | N-P-K=0-6-4の2000倍液を週に2〜3度与え花芽を形成させる。 |
7月上旬〜9月上旬 | 寒冷地では実生苗は夏も休まず生育し続けるといっているが、東京の暑さでは休むと思われるので今のところ一切肥料は与えない。今後の研究課題としたい。 |
9月中旬〜11月下旬 | 再び根が動きだすのでN-P-K=0-6-4の2000倍液を週に一度与え、花芽を充実させるとともに耐寒性を高める。 |
12月上旬〜新葉展開時 | 冬の間は施肥を休む。 |
3.5号ポットで発芽した苗は込み合っていると成長するにつれ微量要素が不足し、いくら肥料を与えても一定の大きさ以上に育たないので新しい用土と鉢に移植する。
用土 | 親株に準ずる |
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鉢 | 苗の少ない時は7.5㎝×9㎝のビニールポットに一本植えし、多い時は深めのプランター(縦17㎝・横21㎝・長さ39㎝)に60本(縦6本・横10本)ほど植えつけると場所をとらずにすむ。 |
移植時期 | 3月下旬〜4月上旬 芽出しの早い東京では3月下旬には成長の早いものから根が数本に分かれ、本葉を出し始めるので移植をする。親株同様根を濡らし湿らせた用土で手早く植えつける。翌春開花した苗は独立させるが、未開花株はもう1年移植せずにおき、翌々春に独立させる。 |
移植後の苗の様子
初花を咲かせたプランターの様子
親株同様雨除け下に置き、葉の質を厚く固くつくり、通風よく育てれば病はでない。肥料の話で述べたが、置き肥が葉にあたったり、用土に混入したマグアンプ Kが溶けて地表に上がり葉に接触すると、あっという間に葉が黒ずんで枯れてしまう。親株と違い葉が小さい苗は葉がなくなると根の数がふえず、翌年出る葉が小ぶりになってしまい回復に2〜3年以上かかるので注意する。小苗にはあまり虫が付かないが、こまめに点検して見付け次第退治すれば殺虫剤に頼らずにすむ。
ご自分で白衣のF1という♂親をつくり、白衣の遺伝を持った花をつくっています。
♀春の声♂白衣F1-1号
♀大丸白花二段♂白衣F1-4号
♀白寿♂白衣F1-1号
白衣F1-3号セルフ
♀初鏡F1♂白衣F1-4号
♀日輪咲H♂白衣F1-4号
雪割草は大株になるまで、変化していくのものが多くあります。目が離せないですね。
初鏡のF1を戻し交配しました
二段の白花を戻し交配しました
年々自分のイメージした花が咲く確率が高くなっているそうです。実生の楽しみは止められないですね。
♀(♀初鏡♂織姫F1)
♂白衣F1−1号
♀(♀初鏡♂織姫F1)
♂白衣F1−4号
♀(♀初鏡♂織姫F1)
♂白衣F1−4号
♀初鏡×織姫F1×白衣F1-1号
♂白衣F1-4号
♀(♀四君子♂初鏡F1)
♂白衣F1-1号
♀(♀四君子♂初鏡F1)
♂白衣F1-1号
♀大丸赤日輪
♂白衣F1−4号
♀大丸赤日輪
♂SM3
♀池日の丸赤
♂白衣F1-4号
♀紫陽♂白衣F1-1号
♀白衣F1-1号♂38
♀大丸赤日輪
♂SM4
♀綾の華
♂白衣F1−1号
♀初日ノ出
♂白衣F1−1号
♀31
♂白衣F1-4号
次の5花はどれも♀大丸白二段♂大丸白二段×白衣F1-1号の交配です。大丸白二段はずいぶん前に大丸の屋上の園芸店で購入された株とのことです。
みなさまの開花報告をお待ちしております。事務局へご連絡ください。
また、関東支部では東京で年に3回例会を開いています。
参加、見学をご希望の方はIHS事務局へお問い合わせください。